アーティスト探訪・プログレ編~ピンク・フロイドその4

名盤「dark side of the moon」を出し、世界的にもまさに大物、「プログレ」バンドとしてのレベルを超えてのビッグ・アーティストとなってしまったフロイド。

以前も書いたとおり、このバンドは、サウンド的には他の「プログレ」バンドのような技巧性や複雑さ、また攻撃性などは薄く、全体として聞きやすい。

他方、歌詞の面ではコンセプトが比較的明確で、メッセージがわかりやすい。この時期あたりからは、特にコンセプト面では、ロジャー・ウォータースの独壇場となってゆく。そのことが最終的にはバンドの分裂をもたらしたのであるが。


1975年に「wish you were here」(「炎~あなたがここにいてほしい」)を発表。このアルバムは、かつての盟友であったシド・バレットに捧げたものと言われている。この作品のレコーディング中に、シド・バレットがいきなりレコーディングスタジオに現れたというエピソードがモチーフとなっているのだと(このアルバムを作る前に、なにかいろんな効果音とか生活音などを組み合わせてのとても実験的なアルバムを作る企てがあったそうだが、それはあえなく潰えたらしい。)。1曲目「shine on you crazy diamond」からまさにシドのことを歌っているようであるが、サウンド的には「狂気」よりもより、「後期フロイド」路線へと向かった、わかりやすいものとなっている。もっとも、「狂気」ほどの衝撃はないのだが、それでも、ロンドン五輪でもニック・メイスンのみが参加したバンドが演じた「wish you were here」はとてもしみる曲。今は逝ったY氏を偲び、脳裏を流れる。

1977年「animals」。こちらは、大きな火力発電所の上を(それに比べれば小さな)豚の風船が浮かぶ象徴的なジャケットで、「dog」「sheep」「pig」といった曲に社会の階層を重ね合わせ、人間社会を風刺するような内容となっている。サウンドは「炎」の延長線上か。個人的には嫌いではないアルバムだが、リアルタイムではすぐには入ってゆかなかった記憶(まだちょっと早かった?)。

1979年「the wall」。この2枚組の大作アルバムはまさにリアルタイムで大ヒットした。子ども達が「教育はいらない、思考コントロールはいらない」(考えてみればアリス・クーパーと一緒か!?)などと合唱する「another brick in the wall part ⅱ」がシングルでも大ヒットするというおまけもついた。コンセプトははっきりしており、フロイドはこのアルバムをひっさげて「the wall」の大々的なツアーを行った。ステージに壮大な壁を築き、それが最後は破壊される、と言うようなものだったと思う。私も当時、中学の卒業アルバムに意味もなく、壁の絵を描き、「壁(the wall)」などと書いたものであった。しかし、個人的にはこのアルバムはその後あまり聞き返すこともなかった。この次の「the final cut」もそうなのだが、ちょっとウォータース色が強くなりすぎて、逆にサウンド面ではやや凡庸な感が強かった。自分としてピンク・フロイドに求めているものとの間のギャップが生じていたのである。

しかし、その後1990年代になり復活した、ウォータース抜きのサウンド重視のフロイドも、私は正面から聴く気にあまりなれなかった。この時期のフロイドを評価する人も多いのだが、自分にとっては今度は、「形骸化したピンク・フロイド」という(渋谷陽一氏が言っていたのかも)感が強く、なんだか中途半端な感が否めなかったのである。なので、この時期のフロイドが来日した際に(「pulse」なんていうライブアルバムになっていたと思う。)、私は見に行く気がせず、その後リック・ライトも亡くなってしまい、永遠にフロイドの雄姿をステージで拝むことは出来ずに終わった。

全体的に見て、私にとってのフロイドは、やはり「狂気」までなのかな、と思ってしまう。先日「炎」を久しぶりに聞いたけれども、「実はこんなによかったのか!」などと改めて感じるところまではなかった。「形骸化した・・」の時期のものも改めて聞いてみようかとは思うが、自分には「狂気」の衝撃、「原子心母」の衝撃、そして最初の2枚のアルバムの衝撃がとても大きかったようである。

数年前に,「ラスト・アルバム」ということで出たアルバムも、なんというか環境音楽のようでつかみ所がなかったなあ。なのに間違えて2セット買ってしまった。1つを処分しなければならない・・。

ロジャー・ウォータースはとても真面目で真摯な人物なのだろうなあとは思う。一番最近のソロアルバムもなんとなく買ってしまった。世界にあふれ続ける紛争等をテーマとしたメッセージ性の高いアルバム。しかし、自分がフロイドに求めていたのはメッセージ性よりもサウンドであった・・すいません。


ろっくおじさんの戯言

ビートルズが全米制覇をした年に生まれた男(いちおうべんごし)が、音楽ネタや日々の雑感を綴る。仕事には役に立たないブログ。

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