1979年秋、当時中3だった自分にとって、ポリスの「message in a bottle」のイントロは、本当に衝撃的だった。
当時、日本で放送が始まった(ラジオ関東~ラジオ日本)「全英トップ20」の第1回のナンバーワンソングであったが、まだ勃興中であったニュー・ウェーブ・サウンドにもろはまりの、性急感・疾走感のあるギターのイントロ。この曲をオープニングとする「白いレガッタ」(legatta de blancというような原題。意味はないらしい。)というアルバムは、もう何十回も聞き込み、当時の自分の生活や状況、友人とのつながり等についての肌感覚や記憶とともに、原体験として甦ってくる。前年に「ロクサーヌ」等で登場してきて、「ホワイト・レゲエ」などと呼ばれたいかしたサウンドを奏でていたバンドが、翌年にはもうこのようなすばらしいアルバムを出していた。
翌々年春、来日したポリスを日本武道館に見に行った。以前にも書いたと思うが、人気が上昇しているさなかのバンドの、本当に勢いのあるライブで、これまで見た幾多のライブの中でも、おそらく五本指に入るものだったと思う。すでに幾多のパンク・ニューウェーブバンドとは異なり、メンバーの皆が既にかなりのキャリアを積んできていたので、テクニックには定評があったのだが、その後バンドは本当に世界的な規模で成功し、オリジナルアルバム五枚を残して解散した。
数年前に、ドラムのスチュアート・コープランドが、他のミュージシャンとのコラボで来日したのを見に行ったことがあったが(これも以前書いた)、アンディ・サマーズは44年ぶり。なにせ60年代にアニマルズにも参加していた(1968年ころに来日公演。ヤクザに騙されて?途中で帰国。)くらいの人で、御年82才である。どんな感じなのだろう、さすがに人に見せられるような演奏はするだろうな、しかし多分これが最後なのかもしれない(最近はこういう人が多い)などと思いながら、川崎まで出かける。
客層は当然ながら、明らかに50代以上が9割、また男性が9割という感じであったが、椅子席は本当にぎっしり満席であった。開演前に流れてくる曲は、ポリスの「beds too big without you」(これも良い)「so lonley」(これもホワイトレゲエ)と来て、なんとキング・クリムゾンの「starless」。ロバフリとコラボしたアルバムもかつて出したことがあったが、会場のみんなは知ってるかな?(半分以上は知ってるかも。)などと思いつつ、途中で暗転・開演。
演奏は、なんとなく予想したところであったが、当初は、(アンビエント・ミュージックというのでもないのだろうが)ステージ後方に、風景や植物、人の営み(日本各地の情景、中国やインドネシアあたりの情景等)が映し出され、それにアンディがギターでイメージをつける、そういうような感じで進んでいった。開演前に、日本語の通訳がつく予定があったが演奏者の強い要望でつけないことになった、との事前アナウンスがあったが、登場したアンディは英語で結構よく喋り(そんなに難しいことは話していなかったが)、自分が熱中していたセロニアス・モンクのこととか(その話のあとで、「round about midnight」をやっていた。これはモンクの曲だったっけ?マイルス?)、アメリカに行った時の話をしながら、娼婦の歌「ロクサーヌ」をやり、また映画のことを話しながら有名な映画音楽をいくつか奏でる(登場したポスターには「七人の侍」や「羅生門」もあった。)等々。かつて日本に来た際にお忍びでゴールデン街に出向いた際の映像も映され、ある店で若者たちが「every breath you take」を歌っているところに潜入し、通りがかり風にいっしょに歌ったあとで素性を明かし、驚愕・狂喜する若者たちと写真を撮っているシーン等が流れていた(彼ら彼女たちは自分と同い年くらいだろうきっと。)。
会場の広さもあり、このようなやりとりが本当に目の前でなされていたので、とても和やかなアットホームな感じで公演が進んだ。演奏にもたたずまいにも、またコメントにもほとんど年齢は感じさせられず、本当にスマートにいい感じで年を重ねてきているな、と思った。かつてのような早弾きはたまに聞かれる程度であったが、音色は、時にdurutti column(vini lailey)を彷彿させるものもあり、とても趣深かった。ポリスの曲としては、「spirit in a material world」「bring on the night」、そして、「アンコール」にやった「message in a bottle」(いずれも、もとのギター演奏の部分は録音したものを使い、スティングが歌っていた部分をギターで奏でた感じ。)。1時間半くらいでさっそうと去って行った。「message~」ではさすがに涙が出た。
なんというか、頑なに創作者としての姿勢をしめそうとする余り、最近の曲ばかりを無愛想に演奏して行く(昔のヒット曲等はほとんどやらない)ミュージシャン、また逆に古い曲のオンパレードで、「昔の名前で出ています」という感じでやる方々等々、いろいろある。それぞれがそれぞれで良いと思う。しかし、今日のコンサートは、最近の取り組みも示しながら、ポリス時代のことも振り返り、さらには自分のルーツにまでさかのぼる等、そのあたりのバランスがとてもよく取れていた。会場が明るくなったとき、なんというかこの感覚をそのままパッケージして持ち帰り、大事に保管しておきたい、会場の雰囲気も含めて、そんな思いにふけらせてくれるものであった。外に出て外気に当たり、外の関係ない音声や音楽に晒されることがもったいない、そんな思いに浸った。
アンディと今度また会うことはあるのだろうか。
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