アーティスト探訪~プログレ編~ピンク・フロイド(その1)

日本ではよく、「4大プログレバンド」なんていういい方をしたりする。

すなわちイエス、キング・クリムゾン、エマーソン・レイク・アンド・パーマー、そしてピンク・フロイドである(ここにジェネシスを加えて、「5大プログレバンド」ということもある。)。

しかし、以前も書いたかも知れないが、これらは皆それぞれ個性があり、「プログレ」と1つにくくってしまうことが難しい部分もある。例えばイエスは、ボーカルの個性に各演奏者の優れた演奏力からもたらされる細かなフレーズの組み合わせの妙、という部分があるし、クリムゾンは時期にもよるが、あるときはジャズ色の濃いサウンドだったり、また純粋に言葉の意味でメタリックなサウンドであったり、またELPはやはりエマーソンのクラシックの素養が相当そのグループの個性を彩っている。

こういった他のバンドに比べると、ピンク・フロイドはやや異質である。

何より、あまり演奏がうまくない。ベースのロジャー・ウォータースなど、下手だと言われることも多いほどである。他のバンドは複雑なアンサンブルや変拍子等を持ち味の一部にしている点では共通しているが、フロイドはそうではない。

ただ、その醸し出す独特の幻想的な雰囲気、そして叙情性は、むしろ他のバンドに比してより大きなインパクトをもたらし、普遍性を有し、より多くのファンに訴えた。これらのバンドの中で、フロイドがもっとも商業的に成功を収めていることがそのことを示している。


ピンク・フロイドは、1967年にデビュー作「the piper at the gate of dawn(夜明けの口笛吹き)」を発表した。このアルバムからはイギリスでシングルヒット(「アーノルド・レイン」「シー・エミリー・プレイ」等)も放っている。正直、このデビュー作と,2枚目以降(厳密にはもっと後か)とでは、別のバンドとまでは言わないが(そもそもプログレ自体がサイケデリックミュージックの発展型として位置づけられているわけだし)、そうも言えてしまうほどかなり様相が異なっている。デビュー作はなんといっても、シド・バレットというフロントマンの個性が大きく、それこそ中期ビートルズがもたらした(イギリスからの)サイケデリックミュージックをさらに突き詰めた名盤である(言ってみれば、「she said she said」や「i am the warlus」がたくさん入っている感じかも。)。1曲目「astronomy domine(天の支配)」からいきなり独特の雰囲気で、6拍子で不穏に音が下降する曲展開、いきなりの名曲であるが、その後の曲も皆どっぷりサイケで、イントロが日本の民謡(田植え歌?)のような「scarecrow」、さらに「matilda mother」「bike」「take up thy stethoscope and walk」 等々独特の世界。レコードで言うB面1曲目の「interstellar overdrive」などという名作は、その後数十年経ってからもいろんなバンドがカバーしたり、90年代になって「interstella」というサイケデリックバンドが出てきたり等(たぶんこっから取ったんだろうと思っている)、このデビュー作の影響力は絶大である。まあ、言ってしまえば、「(ドラッグで)イッてしまったひとたちの音楽」なのかもしれないが。

以前、シド・バレットが死んだときにも書いたが、彼はこのデビューアルバム発表後、精神に異常を来し、グループからは脱退、その後2枚のソロアルバムを出したが、71年頃からは表舞台から姿を消した。この内省的なソロアルバム、そしてさらにその後出されたコンピレーションアルバム等は、正規版は全て入手している。


2枚目「a saucerful of secrets」(神秘)からは、シドが抜け、その後のサウンドの核となるデイヴ・ギルモアが参加する。サウンド的には、タイトル曲等その後のフロイド的プログレにつながるようなものが出てくる。後にいくつかのアルバムで、核になる大作的な曲と、他の小品のような構成となっているが、このアルバムではこのタイトル曲が「大作的」ではある。幻想的かつ不穏な演奏が続いた後、ニック・メイソンの遠くから疾走してくるようなドラミングで曲の雰囲気が大きく変わり、さらに後半へ、そして最後の幻想的なテーマ部分へ、という作り。「大作的」ではあるが、私はこの大作は結構好きである。

フロイドの場合、アルバムの中でこのような大作の他に収録されている小品集も非常に優れている。このアルバムだと、オルガンのリック・ライトによる「remenber a day」とか「see-saw」という曲が、ライト独特の叙情性を醸し出していてよい。ライトは他のアルバムでも名曲をいくつも残しているので、今後紹介する。アルバムの最後「jagband blues」は、アルバム中ではやや異質だが、シド・バレットの置き土産。歌詞は、彼がバンドにもはやいないことを前提としたような内容。フロイドの最初の転換期の曲である。


次回は3枚目から。久々に3回くらい書くことになるか?



ろっくおじさんの戯言

ビートルズが全米制覇をした年に生まれた男(いちおうべんごし)が、音楽ネタや日々の雑感を綴る。仕事には役に立たないブログ。

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