ライブ・レポート~モリッシー4年ぶり来日。見に行くのは20年以上ぶり。

1980年代の中盤は、日本でも洋楽が本当に聴かれていた。未だに80年代サウンドなどと言われるそれである。
「J-POP」という言い方と同じで、個人的にはこのような括られ方には違和感を大変覚えるのだが、まあ、時代の雰囲気として、第2次「ブリティッシュインヴェイジョン」が全米チャートを席巻した、というようなところもあったので、日本における洋楽にとっての幸福な時代、ということでよしとしようと思っている。確かに、一生のうちにこの時期が一番音楽を聴いていた時期だったし。
いろいろなバンド・ミュージシャンがいたが、その中でも、アメリカではほとんど浸透しなかった(本人たちもそのつもりもなかった?のでもないらしいが。)ものの、イギリスではまさに一世を風靡したバンドに「The Smiths」がいた。4枚のオリジナルアルバムのほか、変則的に出されたアルバム(ベスト的なものも含む)数枚、シングル10数枚を出しただけで87年頃には解散してしまったが、そのインパクトは強かった。ゲイを自認し、オスカー・ワイルドを愛読し、独特な、かつとても毒のある詩の世界を展開し、ステージではグラジオラスの花をズボンの後ろのポケットに差し込んで、くねくねと踊りながら歌い上げるvocalのモリッシー、一聴してさわやかだったり、時にパンキッシュな、これまた独特のサウンドを作り出すguitarのジョニー・マー、それにbaseのアンディ・ルークとdrumsのマイク・ジョイスの4人組。「ハンド・イン・グローヴ」でデビュー後、「What Difference Does It Make」「This Charming Man」「William (It Was Really Nothing」「Ask」「Panic」等々、シングルヒットも多々あり、その他名曲が数々ある。「Queen Is Dead」「Girlfriend In a Coma」「Headmaster Ritual」「Death of a Disco Dancer」等々、印象深い曲が本当に多い。自分としては熱狂的なファンと言うほどでもなかったが、気がつけば大半のアルバムは持っていたし、モリッシーの詩集も購入していた。大学時代の自分には、その歌詞に共感できる部分が多かったのである。「Heaven Knows I’m Miserable Now」なんて、ほんと当時の「気分」にあっていた。
なんでも、イギリスの前首相であったキャメロン(保守党)が好きだったというのは、何というかミスマッチで笑える。モリッシーやジョニーマーはこのコメントを聞いて、「キャメロンがスミスを聞くことを禁ずる」と言ったとか言わなかったとか。

さてそういうわけで、モリッシーの来日公演に、最近になり思い立って出向いた。何でもガンを患っているとの話を耳にしたので、元気なときに見ておかないと・・という思いからであった。正直、ソロになってからはあまり熱心な聞き手ではなく、アルバムもほとんど持ってはいない。時々耳にする程度。しかし、未だに同じようなテンション、また同じような肌触りの曲をやり続けているということは知っていたので、ソロアルバムの復習というか予習はほとんどせずに赴いた。

19:00過ぎ頃会場へ。隣席の中年の男性が「少しお話ししてもよろしいでしょうか」と言って話しかけてきた。こんなことは何十回もライブに足を運んで初めてのこと。その人は4年前に日本公演を4日間連続で見たそう。ソロ活動になってからの熱心なファンのよう。スミスの頃はまだ大学に入っていなかったようなので、少し自分よりも若いらしい。こちらは大学に入った年にまさにスミスがデビューしたという感じだったので、リアルタイム世代。しかも、モリッシーを前に見たのは90年代の前半(武道館)だから、かれこれ20年以上ぶり。もっとも、そのことを大展開しての話はしなかったが。
19:30開演の予定だったが、いきなりラモーンズの1976年1月のライブ(最初期!このメンバーもう今は誰も生きてないんだよね。)という映像が流れ、その後アリスクーパーやジャッキーウイルソン??、アイク&ティナ・ターナー、セックス・ピストルズ(「God Save the Queen」)、ダムド(「New Rose」)、ニューヨーク・ドールズと言った面々のライブ映像や、昔の映画の1シーンと思われるようなカット(ゲイ映画やイギリスのコメディエンヌの映像、ジェームス・ディーンの映像等もあり)が30分くらい流された。正直、間延びという感覚はあまりなく(まあ、早く出てきてほしいとも思ったが)、それぞれの映像がなかなか興味深く(ピストルズはやはり興奮する。ダムドも。)、まあ、モリッシーが好きなのを並べたんだろうなと思いつつ見ていた。
20:00頃より本人とバンドが登場。オープニングはソロ活動最初のヒット曲(正直、ソロの曲はこの曲くらいしかキチンとは知らない。)。思っていた以上に元気だし,全く声も動きも変わってない。バンドのタイトな演奏に乗せて、1曲1曲がきわめてコンパクトに進む。下手すれば1分30秒くらいの曲が続く。かと思えば、アメリカの警察官の市民に対する暴力シーンの映像をつなぎ合わせたような映像を流しながらの演奏や、アメリカやイスラエルの「Slaughterhouse」(=屠殺場)の屠殺シーンの映像をこれでもかとばかりつなげたものを背景に「Meat is Murder」をドロドロに演奏し続ける等、今回のライブで言いたいことはここなのだろう、と改めて思い知らされるようなところもあった(並びに座っていた女性は気持ち悪くなったのか、座り込んでいた。会場の入り口には、肉食を糾弾する、というような趣旨のパンフレットが何種類か置いてあり、またそのようなモリッシーの顔写真が大きく載ったパネルも何枚か出ていた。全体として、戦う菜食主義者であるモリッシーの姿勢が強く打ち出されていた。)。他方、MCは、日本のファンを意識してか、「昨日のアメリカ大統領候補のテレビ討論みましたか?Horrible!Horrible!Horrible!だったよ、。」「ブルース・リーがこの国の人でないことはわかっている。ブルースリーはとてもすばらしいスターだったけど、実は泳げなかった。知ってたか?」なんてことを言い出したり、とてもリラックスしたステージであった。
スミスの曲は結局3曲やったのか(「Meat・・」「What She Said」「How Soon Is Now」)。知らない曲が結果的に多かったが、とにかくそこでモリッシーが変わらず現役モードで歌い続け、自分のメッセージを届け続けていたことだけで、本当によい時間だった。アンコールも1曲のみ。もったいぶるところも全くなかった。
隣のお客さんとは,一期一会で別れ、そのまま帰宅。仕事の電話が入っていたので、道玄坂付近でやむなく電話したが、いつになく余韻を大事にしたいという思いが強いライブであった。

ろっくおじさんの戯言

ビートルズが全米制覇をした年に生まれた男(いちおうべんごし)が、音楽ネタや日々の雑感を綴る。仕事には役に立たないブログ。

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